『ノルウェイの森』といえば、村上春樹さんの世界的なベストセラー小説。
村上春樹さんといえば毎年ノーベル文学賞で騒がれるほど世界的に注目されている作家です。
『ノルウェイの森』は1987年に発表された作品ですがいまもなお人気で、魅力的な登場人物が数多く登場します。
今回は主人公・ワタナベと同じ寮に住んでいた永沢さんの名言を紹介し、さらに「永沢さんにモデルはいるのか?」を考察してみます。
もくじ(各リンクから移動できます)
村上春樹『ノルウェイの森』永沢さんとはどんな人か?
永沢さんは主人公・ワタナベと同じ寮に住み、学年が2つ上で東大の法学部に通っています。
バルザック、ダンテ、ジョセフ・コンラッド、ディッケンズなどの古典小説を愛好する読書家です。
寮内では一目置かれ、公務員試験を受けて外務省に入ります。
永沢さんの名言まとめ
読書について語る永沢さん
現代文学を信用しないというわけじゃないよ。ただ俺は時の洗礼を受けてないものを読んで貴重な時間を無駄に費したくないんだ。人生は短かい。
他人と同じものを読んでいれば他人と同じ考え方しかできなくなる。そんなものは田舎者、俗物の世界だ。まともな人間はそんな恥かしいことはしない。
永沢さんは原則として死後30年を経ていない作家の本は読みません。
時間が経ち、しっかりと評価された本だけしか読まないというマイルールを持っています。
将来の仕事について語る永沢さん
主人公のワタナベに「どうして外務省に入るのか」とたずねられたときに永沢さんはこのように答えます。
どうせためすんならいちばんでかい入れものの中でためしてみたいのさ。つまりは国家だよ。このばかでかい官僚機構の中でどこまで自分が上にのぼれるか、どこまで自分が力を持てるかそういうのを試してみたいんだよ。
ゲームみたいなもんさ。俺には権力欲とか金銭欲とかいうものは殆んどない。本当だよ。俺は下らん身勝手な男かもしれないけど、そういうものはびっくりするくらいないんだ。いわば無私無欲の人間だよ。ただ好奇心があるだけなんだ。そして広いタフな世界で自分の力を試してみたいんだ。
国家という巨大な枠のなかで自分の力を試してみたい、という野望を持つ永沢さん。
外務省の試験もあっさりと合格し、彼は最終的にドイツへと行きます。
人生の行動規範について語る永沢さん
小説の序盤で主人公のワタナベとバーで会話したときのことです。
人生の行動規範についてワタナベからたずねられ、永沢さんは「紳士であることだ」と語ります。
ワタナベはその発言を聞いて、椅子から転げ落ちそうになります。
ワタナベが「紳士の定義」について質問したときの永沢さんの回答が下記です。
自分がやりたいことをやるのではなく、やるべきことをやるのが紳士だ
自分がやるべきことをやる。
社会のなかでやりたいこと(好きなこと)をやるのではなく、社会に求められていることをやるということでしょうか。
深い言葉です。
社会の不公平さについて語る永沢さん
人生に対して恐怖を感じることはある。そんなのあたり前じゃないか。ただ俺はそういうのを前提条件としては認めない。自分の力を百パーセント発揮してやれるところまでやる。欲しいものはとるし、欲しくないものはとらない。そうやって生きていく。駄目だったら駄目になったところでまた考える。不公平な社会というのは逆に考えれば能力を発揮できる社会でもある。
不公平な世の中だからこそ、自分の能力が誰かに認められて活躍する場所を与えてもらえる。
たしかに永沢さんの言うとおりです。
不公平な社会で能力を発揮するために、永沢さんは外務省の試験が終わってから独学でスペイン語・英語・ドイツ語・フランス語をマスターしています。
永沢さんは努力型の天才なのです。
悩むワタナベに忠告をする永沢さん
ワタナベと永沢さんがそれぞれ寮を出て新しい生活をはじめていく場面で、永沢さんがワタナベに伝えた最後の言葉です。
自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ
この言葉は物語の終盤でも登場します。
あれこれ思い悩み、落ち込んでいるワタナベはふとこの永沢さんの言葉を思い出し、立ち上がります。
この言葉を永沢さんからもらっていなかったら、ワタナベは立ち上がることができなかったかもしれません。
それくらい『ノルウェイの森』のなかでは重要なフレーズです。
永沢さんのモデルは誰かなのかを探る
この永沢という人物。
モデルは誰なのか、村上春樹は具体的な発言はしていません。
ただいくつかの旅行記を読むなかで永沢さんのモデル(モデルの一部)らしき存在を発見しました。
旅行記『遠い太鼓』に登場する、ギリシャのミコノス島で出会ったベルギー人のジョンという方がモデルかもしれません。
『ノルウェイの森』はミコノス島での生活が関係している
『ノルウェイの森』は1986年頃、ギリシャのミコノス島あたりで書き始められました。
当時はPCがなく、村上さんはフェリーの待合室やカフェなどで大学ノートに手書きでせっせと書いたそうです。
時が経ち、2010年代になって村上さんはギリシャのそのミコノス島を再訪しています。
そのときの様子が『ラオスにいったい何があるというんですか?』という旅行記の『懐かしいふたつの島で ミコノス島 スペッツェス島』のなかに書かれています。
村上さんはミコノス島についてこのように述べています。
とくにミコノス島は小説『ノルウェイの森』を書き始めた場所だったので、僕の中にはそれなりの思いのようなものがある。
1986年当時、執筆の息抜きでミコノス島にあるバーに通っていたそうです。
バーで出会った人について、このような記述があります。
「ミコノス・バー」で働いていた女性はとてもチャーミングな皺を寄せて笑う人で、僕はこの人を──というかその皺の具合を──イメージして『ノルウェイの森』のレイコさんという人物を描いた。
レイコさんというのは主人公・ワタナベの恋人である直子がいた療養施設で、直子のルームメイトだった女性(タバコをよく吸う中年の女性)です。
つまり、『ノルウェイの森』にはギリシャのミコノス島での生活の風景(出会った人など)が入り込んでいるようです。
ベルギー人のジョンについて
村上春樹さんがギリシャで出会った風景や人たちが、『ノルウェイの森』に少なからず影響を与えているみたいです。
旅行記『遠い太鼓』に、ギリシャのミコノス島で出会ったベルギー人のジョンという方が出てきます。
ベルギー人のジョンというのは村上春樹さんが1986年当時、ギリシャのミコノス島で借りていた部屋を引き払う際に現地で手続きをしてくれた人のようです。
当時の村上春樹さんいわく、このジョンの唇はいつも6ミリほどアントワープの方にむけてゆがんでいるそうです。
このジョンの発言はどうも永沢さんのような雰囲気があるのです。
旅行記『遠い太鼓』に書いてある文章が下記です。
「なあミスタ・ムラカミ、君と僕とはインテリだ。ここにいる他の奴らはみんな阿呆だ。阿呆の野蛮人だよ」とジョンは言う。
永沢さんも主人公のワタナベに下記のようなことを言っていました。
なあ知ってるか、ワタナベ? この寮で少しでもまともなのは俺とお前だけだぞ。あとはみんな紙屑みたいなもんだ
どうでしょう? 発言がなんとなく似てませんか?
村上春樹さんは自身のあらゆる記憶を使って作品をつくりあげていくそうです。
出会った人の発言等も作品の一部に取り入れているのだと思われます。
つまり、ベルギー人のジョンの雰囲気・言い回しが永沢さんという登場人物の一部になっている可能性があります。
この『遠い太鼓』という旅行記では『ノルウェイの森』を執筆した当時の雰囲気もわかるので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
『ノルウェイの森』をオーディオブックで聞くには(2種類)
最近、オーディオブックが新しい読書法として流行っていますよね。
永沢さんが登場する『ノルウェイの森』についても、どこかで聞けるか調べてみました。
kindle版の『ノルウェイの森』を購入し、スマホの読み上げ機能を使う
kindleで『ノルウェイの森』を購入して読み上げ機能を使えば、若干たどたどしくはあるのですが、自作の朗読音源ができあがります。
自分はこの案で『ノルウェイの森』を聴いているのですが、じゅうぶん聞けます。
ついに『ノルウェイの森』がamazonのオーディブルで登場!(2023年9月)
村上春樹さんは『螢』という短編を元に、『ノルウェイの森』を書き上げました。
そんな『ノルウェイの森』がついに2023年9月4日からAmazonオーディブルで配信されました。ついに、です。
ナレーターはなんと俳優の妻夫木聡さん。
『ノルウェイの森』といえば、村上春樹作品でいちばん有名な作品ですから、読んだ人も多いでしょう。
一度本で読んだ人も、まだ読んでない人も耳からの読書でぜひ。
『ノルウェイの森』以外にも下記の作品がオーディオブックになっています。
村上さんは何度も書き直しをすることで有名です。
あと書き直しの際に、”耳”を使って音の響きを確認しながら書き直ししているみたいです。
だから、村上春樹作品をいちばん楽しめる方法は、オーディオブックなのかもしれません。
Amazonオーディブルで『ノルウェイの森』と合わせて過去の村上春樹作品を耳で楽しむのも良いものですよ。まとめ
永沢さんは向上心のかたまりで、言葉のひとつひとつに力強さがある個性的なキャラクターです。
『ノルウェイの森』には永沢さん以外にも魅力的な言葉を放つ登場人物がたくさん登場します。
世界的なベストセラーでいまもなお、読まれている作品ですのでお時間がある方はぜひいちど読んでみてください。
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