2021年10月1日に早稲田大学内にオープンした村上春樹ライブラリー。
予約が取れたのでさっそく行ってきました。
この記事では村上春樹ライブラリーのなかで気になったポイントを館内の写真などを交えて紹介します。
もくじ(各リンクから移動できます)
早稲田大学にある「村上春樹ライブラリー」とは

世界的な作家・村上春樹さんから寄贈されたレコードや蔵書が展示された新しい図書館です。
このライブラリーのモットーは「物語を拓(ひら)こう、心を語ろう」。
村上作品の世界観を全身で感じられる空間となっています。
早稲田大学内にある、この村上春樹ライブラリーは坪内博士記念演劇博物館の近くにあった4号館をリノベーションしてできあがりました。
村上春樹ライブラリーの設計を担当したのは新国立競技場の設計をした世界的な建築家・隈研吾さんです。
村上春樹さんの言葉

村上春樹ライブラリーの1階にあるギャラリーラウンジの入り口に村上さんの言葉があります。
ここで全文を紹介してみます。「学び」についての言葉です。
息をするのと同じように
学校に通っている頃は、自分は勉学をすることにあまり向いていないと考えていたのですが、大学を卒業してしばらくしてから、「僕は実は学ぶのが好きだったんだ」ということにあらためて気づきました。学ぶというのは本来、呼吸をするのと同じです。教室の中であれ、外であれ、僕らは息をするのと同じように、日々多くのものごとを自然に、当たり前に学び取っています。このささやかなライブラリーが、学校や国境の壁を自由に抜けて、あなたにとって「息をしやすい学びの場」となることを、心から祈っています。
村上春樹
この文章を読んで下記の村上さんの言葉を思い出しました。
『走ることについて語るときに僕の語ること』というランニングにまつわるエッセイのなかに書かれていた言葉です。
学校で僕らが学ぶもっとも重要なことは、「もっとも重要なことは学校では学べない」という真理である。
『走ることについて語るときに僕の語ること』より
いま、学校に通っている方はぜひ覚えておいたほうがよい言葉です。
これはほんとにそのとおりだなと思います。
学校の教室で学ぶ知識が社会に出て役に立つことなんてほとんどないです。
だから、適度にやり過ごして死なずに卒業できたら、もうそれでじゅうぶんです。
呼吸をするように自分の好きなことを自然に学んでいくことこそが勉強だと思います。
しかし、「息をしやすい学びの場」というのはなんとも素敵な言葉です。
建築家・隈研吾さんの言葉
地下1階のラウンジには設計を担当した隈研吾さんの言葉もありました。
下記です。
トンネルとしての建築
村上春樹さんの小説によって、どれだけ多くの人が救われたのだろうか。そういう僕も、村上さんの小説で救われた一人である。村上さんの小説を読み始めると、僕はトンネルの中に吸い込まれていくような感覚を味わう。その体験は突然にやってきて、そのトンネルの入り口は、この見慣れた日常の世界の中に、突然にぽかんとあいている。トンネルは、奥へ奥へといざない、最後のページを閉じると、また突然に日常に放り出される。その時の僕は、穴に吸い込まれる前の僕とは全く別の人間になっている。そんなトンネルのような建築を作りたいとずっと考えてきたが、いつも建築がトンネルになれるわけではない。しかし今回は本物のトンネルができた。何しろ春樹さんとの共同作業だからである。
隈研吾
このブログを書いている僕自身も日々、村上作品に救われている人間のひとりです。
この村上春樹ライブラリー内には、現代社会を構成する「効率」「ノルマ」「競争」といった息苦しさを生む要素がどこにもありません(たぶん)。
この図書館は今後、多くの人にとって落ち着ける場所になるかもしれません。
村上春樹ライブラリーでよかったところ4つ
村上春樹作品の世界観がいたるところに展示されている

館内の中心には村上春樹ライブラリーの象徴とも言えるアーチ状の階段があります。
このトンネルのような階段部分は、「階段本棚」と名付けられています。
テレビで紹介されているときに映し出されていたので見たことがある人が多いかもしれません。
階段の両側には村上春樹さんが寄贈した本が壁一面に飾られています。
この階段は本を使ったアート作品のようです。
村上春樹作品は図書館をモチーフにした物語が多く登場しており、この村上春樹ライブラリーは作品世界の雰囲気を感じられる場所でした。
ギャラリーラウンジの本棚には村上さんのこれまで作品(翻訳本や関連本も)が作品ごとに並べられています。
館内のいたるところに村上作品を感じられるものもありました。
たとえばこんな感じのものです。

『風の歌を聴け』のなかに描かれている手書きのTシャツだったり。

『羊をめぐる冒険』に登場する羊男の絵も壁に描かれていたり。

舞台『海辺のカフカ』で使われた舞台美術装置までも。
村上春樹さんの書斎の隅々を観察できた

村上春樹さんといえば多作でワーカホリックな作家です。
読者からの質問に答えた『村上さんのところ』では村上さんの書斎の写真が紹介されています。
この村上春樹ライブラリーの地下1階には村上春樹さんの現在の書斎が再現されています(ガラスのドアがあり、中には入れないのですが)。
これまで作業机の風景については紹介されていました。
横長のテーブルの上にマックのデスクトップPCとキーボード。
ゲラや鉛筆、マグカップ等が置かれているこの写真です。

ただ、ずっと気になっていたことがありました。
村上春樹さんはどんな椅子に座ってあの作品群を作りあげているのだろうか、と。
これまでは村上春樹さんがどのような椅子に座って執筆をしているかわかりませんでした。
それが今回、この村上春樹ライブラリーの地下1階に展示されている”村上春樹の書斎”でやっと判明しました。
テーブルの下に置かれていた黒い椅子には……背もたれがない。
……背もたれがない。
村上春樹さんはストイックすぎて、仕事中は背もたれにもたれることもないようです。
しかも、ものすごくコンパクトな椅子。
スタイリッシュでシンプルなデザインです。
気になったので、この書斎にある椅子について調べました。
おそらく『バランススタディ』という椅子です。
村上春樹ライブラリーの書斎に展示されていた椅子とAmazonでの画像が同じなので、おそらくこのブラックの椅子で間違いないでしょう。
『バランススタディ座ると自然に姿勢をサポートしてくれて、疲れにくい椅子のようです。
参考までに座っているイメージの写真を引用します。

座り方はかなり斬新です。ひざを折りまげて正座するみたいなイメージでしょうか。
作業時の姿勢も、たしかによくなりそうです。
長時間にわたりデスクで作業をされている方におすすめらしいです。
座りながらの執筆が主な仕事である村上さんのことですから、とくに執筆時に座っている椅子についても悩みに悩んで選んでいることでしょう。
作家というのは、自宅ワークのプロみたいな存在です。
自宅作業用のデスク・椅子も最適化しているはず。
村上さんは毎朝、長時間執筆作業をされているらしいので、体に疲れを溜めないためにこの『バランススタディ図書館らしくない、カフェのような図書館


この村上春樹ライブラリーは、居心地の良い空間でした。
1階のオーディオルームからは心地よい音楽が流れています。

このオーディオルームには村上春樹さんから寄贈されたレコードがガラスケースに入れられた状態で展示されていました。

英語でピーター・キャットと書かれています。
どうやら村上さんが専業作家になる前に経営されていたジャズ喫茶『ピーター・キャット』で使われていたレコードのようです。
使いこまれている感がかなりあります。
『ピーター・キャット』関連の展示物だと、地下1階に当時の店で実際に使用されていたグランドピアノも置かれています。

この図書館の居心地の良さを作っているのはレコードが流れるオーディオルームと地下1階にあるカフェのおかげかなと思います。
一般的な市立図書館では静かすぎてたまに居心地の悪さを感じてしまいますが、この村上春樹ライブラリーは程よく音楽が流れていてリラックスできる空間です。

落ち着ける椅子がところどころにあったりして、自分が早稲田大学の学生なら入り浸りそうです。
地下1階のカフェ(店名:橙子猫 オレンジキャット)では村上さんの好みに近いコーヒーやフードなどが楽しめます。
詳しいメニューは上記のHPでチェックしてみてください。

2021年10月18日にTOKYO FMの『THE TRAD』という番組で稲垣吾郎さんと村上春樹さんが対談していました。
その放送で村上春樹さん自身が『村上春樹ライブラリー』について語っていたことをざっくりまとめました。
Amazonオーディブルで村上春樹作品をフルで視聴できるスペースがある

端末は2台あって、新潮社から出版されている作品(長編から短編集、旅行記など)をフルで視聴できます。

ちなみにオーディブルで配信されている村上春樹作品は下記です(2023年12月時点)。
【長編】
「騎士団長殺し」
「1Q84」
「海辺のカフカ」
「ねじまき鳥クロニクル」
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」
「ノルウェイの森」
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
【短編集】
「東京奇譚集」
「神の子どもたちはみな踊る」
「螢・納屋を焼く・その他の短編」
「パン屋際襲撃」
「レキシントンの幽霊」
「カンガルー日和」
【エッセイ】
「辺境・近境」
「職業としての小説家」
「猫を棄てる」

【オーディブルで村上春樹作品を聞くメリット】
・言葉の響きを大切にしている村上春樹さんの文章を耳で楽しめる
・目で読んだ読書とは違った読書体験ができる
【オーディブルで村上春樹作品を聞くデメリット】
・上記で紹介した新潮社の村上春樹作品しか聞けない
村上春樹ライブラリーで残念だったところ

残念だったところは、たったひとつです。
ずばり、世界的なベストセラー『ノルウェイの森』の直筆原稿(もしくはノート?)が展示されていなかったことです(2023年12月時点)。
この村上春樹ライブラリーがつくられる際の最初のニュース(どこの記事かは不明)で『ノルウェイの森』の直筆原稿も寄贈されて〜みたいな文章を読んだことが頭に残っており、ずっと気になっていました。
で、今回は『ノルウェイの森』の直筆原稿を見るのを楽しみにやってきましたが、残念ながらまだ展示されていませんでした。いずれ展示されるようです(時期は不明)。
ちなみに『ノルウェイの森』は1986年頃、村上春樹さんがイタリア・ギリシャあたりに滞在したときに書き上げた作品。
『遠い太鼓』というヨーロッパ滞在時の様子が書かれたエッセイにその当時の執筆状況が書かれています。
この『ノルウェイの森』までは、村上さんはパソコンでタイピングして執筆していません。
すべて手書きで作品を作りあげていました。
現地で買ったノートやレターペーパーにすべてペンで書き上げたらしいです。
『ノルウェイの森』は上下巻で原稿用紙約900枚分もあるかなりの長編作品。
村上さんが『ノルウェイの森』を生み出した歴史的時期の直筆原稿を生で拝見したかったのですが、残念です。
村上春樹ライブラリーへ行くための予約が不要に(2023年12月時点)

オープン以降は入館に予約が必要でしたが、現在(2023年12月時点)は予約が不要でした。
誰でも入館が自由とのことです。
開館時間は10時から17時で、入場は無料。
くわしくは村上春樹ライブラリーのHPをご覧ください。

「安西水丸展 村上春樹との仕事から」へ行った感想(2023年12月更新)

「安西水丸展 村上春樹との仕事から」へ行ってきました。
村上春樹ライブラリーの2階のスペースで開催されてました。
『象工場のハッピーエンド』、『村上朝日堂』シリーズ、『ふわふわ』、『うさぎおいしーフランス人』などなど、水丸さんらしさがつまった原画がたくさん展示されていました。

どの原画も、本で見るよりも鮮やかでシンプルで素朴でずっと見たくなる感じでした。



なんと、この展示のアンケートに答えた方は、水丸さんの原画のオリジナルステッカーがもらえるみたいです。

在庫がなくなるまでだと思いますので、ぜひお早めに。

今回の展示を見ていてかわいかったのは、圧倒的に『うさぎおいしーフランス人』でしたね。
変なカルタの本だったと思うですが、村上春樹さんってほんとにいろんな本を出しているんだな、と再確認できるすばらしい展示でした。
まとめ

というわけで、早稲田大学内にある村上春樹ライブラリーへ行ってみた感想をいろいろとまとめてみました。
行ってみて感じたこと。
この村上春樹ライブラリーは図書館というより美術館みたいなイメージです。
図書館というだけあってちゃんと静かな空間ですが、市立図書館みたいにまったく音がしないというわけではありません。
館内はオーディルームから程よい音量で音楽が流れていて、どこにいてもリラックスできる空間となっています。
ゆっくりくつろげる図書館という雰囲気です。
村上春樹ライブラリーに行ってみていちばんの収穫は、村上春樹さんの書斎を生で確認できたこと。
普段執筆しているときに使っている椅子を確認できたのはよかったです。
ひとりひとり良いと感じる点はちがうと思うので、村上春樹ファンはぜひ行ってみてください。
今後、展示されるものも徐々に追加されていくと思われるので、僕もまた行ってみたいと思います。
雑誌『ブルータス』でも村上春樹ライブラリーについて特集が組まれているみたいです。
気になる方は下記もチェックしてみてください。
●村上春樹ライブラリーについて・・・
よくある作家の○○館みたいな場所にしたくなかった。入れ物だけつくり、人が自由に行き来できて発信し合える場所にしたかった。
●地下1階のカフェ(オレンジキャット)について・・・
最初は大手のチェーン店を入れる案で進んでいた。しかし、村上さんが大学側に「学生さんがたくさんいるし、学生さんにやってもらったほうがおもしろいものができますよ」と要望を出して、学生が運営することになった。
●カフェスペースにある大きな木のテーブルについて・・・
かつて村上さんが使っていたテーブルで、テーブル上にある大きなシミは村上さんが過去にこぼしたワインのシミ