2023年4月13日に新潮社から村上春樹さんの最新長編小説、『街とその不確かな壁』が発売されました。
購入して少しずつ読み進めて、ようやく読み終わりました。
今回、この記事では『街とその不確かな壁』のざっくりとしたあらすじ・感想をまとめました。
なお、ラストのネタバレみたいなものはないです。
もくじ(各リンクから移動できます)
村上春樹・最新作『街とその不確かな壁』はどんな小説か(ざっくりとしたあらすじ)
『街とその不確かな壁』は本自体はハードカバー1冊ですが、中は1部・2部・3部と分かれています。
各部のそれぞれの内容をかんたんに紹介します。
第1部
『壁に囲まれた街』での夢読み(街の中で主人公に与えられた職業)の生活と、現実世界における10代の『ぼく』と『きみ』の学生時代の恋愛模様、そして主人公の『ぼく』が社会人、40歳になるまでが交互に描かれています。
『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』を読んでなくても今回の『街とその不確かな壁』は楽しめますが、読んでいたら細部の違いを比べられたりしておもしろいので、時間がある人は読むのがおすすめ。
第2部
現実世界の主人公が40歳を過ぎ、勤めていた会社をやめ、しばらくして突然に図書館で働くことを決意。
つてを頼りに福島県の山奥のひっそりとした図書館で職を得て、図書館長としてその地で生活をしていきます。
その中で出会った少年があるとき、ふと失踪してしまいます。
第3部
1部で描かれた『壁に囲まれた街』がまた描かれます。
主人公はその街にたどりつき、失踪した少年の姿を見かけて……。
こんな感じのあらすじです(ざっくりすぎてすみません)。
今回の長編は初めて紙の本と電子書籍が同時発売
自分は電子書籍(kindle)で購入しました。
理由としては、ハードカバーの紙の本で600ページ以上は重すぎて持ち歩けないですし、読書に集中できない気がしたためです。
書店で立ち読みもしましたが、今回の紙の本はずしりと重い……。
その点、電子書籍はスマホやタブレットでダウンロードして、いつでもどこでもスマホ本体の重さだけで読めますから、気楽に読書できました。
スマホの読み上げ機能を使えばオーディオブックとしても読めました(聞けました)し、買うなら絶対に電子書籍のほうがおすすめです!
今回の長編小説『街とその不確かな壁』は、はじめて村上春樹作品を読む人にもおすすめ
文章がシンプルで読みやすい
まずはこれです。
『街とその不確かな壁』は文章が読みやすいです!
シンプルな言葉とリズムのいい文章ですいすい読めます。
今回の『街とその不確かな壁』は村上さんが目指している究極の文章という感じがしました。
簡単な言葉しか使われていないのに、絶妙な言葉の組み合わせで、登場人物の心情や状況が的確に表現されています。
今回の長編は、というか最近の村上春樹作品は昔に比べて文章がどんどん読みやすくなっています。
村上春樹さんはデビューからずっと文章を磨くことを意識しながら執筆されているそうなので、読むだけで40年以上現役で小説を書いている作家の最新の文章術も学べる気がします。
村上春樹作品でよく描かれるモチーフが出てくる
村上春樹作品といえば、図書館、少年と少女の恋愛、不思議な街、影などがたびたび登場します。
今回の長編でもそれらがしっかりとすべて出てきます。
村上春樹ファンだけではなく、はじめての人も楽しめる世界観になっていると思います。
あの『やれやれ』が出てこなかった
村上春樹作品といえば、「やれやれ」とつぶやく主人公がおなじみ?です。
しかし今回の作品は、1回もやれやれが出てこなかったです(筆者調べ)。
やれやれ、が苦手な村上春樹初心者も安心?です。
性描写が出てこなかった(たぶん)
村上春樹作品といえば、しつこい性描写がたびたび出てきますが、今回の長編はほぼなかった(はず)です。
キスくらいはまあ、ありましたが。
ただ、価格が高い
『街とその不確かな壁』ですが、ハードカバーで分厚い長編小説とは言え、2,970円は高い……。
買うのをちょっとためらう価格です。
われわれの知っている本の値段ではない……!
2年後くらいに文庫本が出るまで待とうかとか……図書館で借りられるまで待とうか(おそらく予約待ちがたくさんいそう)とか……考えました。
しかし好奇心をおさえきれず、購入しちゃいました。
2年後くらいに文庫本で発売される場合、おそらく分冊になって販売されるだろうと思います(予想)。
文庫なら1冊1000円弱で2冊、合計2000円くらいはするだろうな、と。
今、3000円弱で読むか、2年後、2000円弱で読むか。
自分の中で価格差と、今どれくらい読みたいかを考えてみた結果……1000円くらいの差なら、今買うしかない!という結論にいたりました。
……結論としては買ってよかったです!
やはり本は気になっているときに読まないといけない気がします。
文庫本が出るであろう2年後に生きている保証もないですし。
まとめ
『街とその不確かな壁』は村上春樹作品の集大成!みたいな感じです。
この作品はコロナが猛威をふるいだした2020年春頃から、書き始められたそうです。
村上春樹さんも70歳を超えて、人生の終盤を視野に入れながら執筆されていたのかなという感想を持ちました。
長編小説を書く際は2年、3年かかるみたいなので、村上さんの体調次第では今回が最後の長編になる可能性だってじゅうぶんにありえます。
そういう意味において、村上春樹さんの最新の小説は読む価値のある作品です。
ちなみに今回のこの作品は、コロナと現代社会の関係性みたいものも感じ取れて、村上さん、ノーベル文学賞をひっそりと狙いにきてるんじゃないか?と個人的には感じましたね。
今少しでも興味がある人は、ぜひ電子書籍(お好みでハードカバー)で購入して読んでみてください!
追記(2023年6月):今回村上春樹さんが時代に合致した物語を書いた理由について考察
読み終えてから時間が少し経ったので、ここでなぜ今回村上春樹さんは今回の長編を書いたのかについての考察をしておきます。
2023年7月号で、村上春樹さんは『疫病と戦争の時代に小説を書くこと』というエッセイでこんなことを書いていました。
その話を実際に書き直してみて、僕は驚きの念と共にひとつの事実を発見することになりました。これは実に今、この時代に合致した物語だったのだという事実を。
2023年7月号『疫病と戦争の時代に小説を書くこと』より
村上春樹さんは40年前の中編小説(上の引用で村上春樹さんが”その話”と書いているもの)を大幅に書き直す形で、今回の新刊『街とその不確かな壁』を完成させています。
コロナの世界的な蔓延、ロシアとウクライナ戦争……村上さんがこの時代に合致したと感じる物語が、今回の『街とその不確かな壁』というわけですね。
村上さんといえば、毎年秋のノーベル文学賞の発表のたびに、話題になる世界的な小説家です。
「今回もノーベル文学賞は取れませんでした」が毎年秋の風物詩みたいになっています。
勝手な想像ですが、まわりの人から「今回もノーベル文学賞、とれなくて残念でしたね」と毎回言われて村上さんはうんざりしていているんだろうな、と思います。
「ああ、毎回毎回うるさいな、ノーベル文学賞なんてべつにほしくないのに、まったくもう……あ、そうだ、もういっそのこと、ノーベル文学賞とっちゃえば、もうその後はノーベル賞に振り回されないんじゃないか? そうだ、今の時代に合った長編を1つ書いて、ノーベル文学賞をもらって静かに暮らそう」
……こんなことをひそかに考えて、今回村上春樹さんは時代に合致した物語を書いたんじゃないかな、と個人的には想像しました。
今回の新刊『街とその不確かな壁』は、いままでの長編(1Q84、騎士団長殺し、など)とは違って、ノーベル賞関係者が評価しやすい長編かもしれません。
読み終えてそう感じました。
今回の新刊『街とその不確かな壁』がきっかけで、もしかしたらほんとに近い将来村上春樹さんがノーベル文学賞を受賞しそうな予感がします。
ノーベル文学賞にいちばん近い日本の小説家といえば、村上春樹さんでしょう。
そんな村上春樹さんの最新作をいちはやく読めるというのは日本人の特権です。
今回の新刊『街とその不確かな壁』は、読んでおいて損はないと思います。ほんとに。
日本語が読める読者はぜひ。