毎年ノーベル文学賞の候補にあがっているし、世界的な小説家・村上春樹の作品を読んでみたい。
でも、村上春樹作品は話がむずかしいって聞くし、文章の表現がまわりくどくてすこし苦手・・・。
そのような人はまず気軽に読める村上春樹作品の”漫画版”を読んでみるのはいかがでしょう。
漫画版なら30分もあれば1冊を読むことができます。
2017年頃からフランス人アーティストたちによって村上春樹作品を漫画化するシリーズが進行しており、『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』として発売されました。
2021年9月でようやくその9冊がすべてそろいました。
この記事では、なぜ村上春樹作品が嫌い・苦手な人が多いのか・どう楽しめばいいのかについて、そして、漫画化された村上春樹作品(9冊)のなかで読みやすくておすすめの作品について紹介しています。
もくじ(各リンクから移動できます)
村上春樹作品は嫌い・苦手な人が多いのはオチがはっきりしないから
村上春樹作品には明確な”オチ”がない作品が多いです。
起承転結がしっかりとありません。
誰もが筋を理解できる一般的な作品に慣れ親しんでいる人からすると、村上春樹作品を読み終えたときにこう感じるかもしれません。
「それで・・・?」と。
このようなもやもやとした読後感を苦手とする人が多いようです。
村上春樹さんは自身の作品について、とくにオチがなく、難解な物語を書いているというようなことをおっしゃっています。
つまり、村上春樹作品の楽しみ方は世界観・雰囲気をなんとなくで味わうことです。
いきなり長編小説を読むのではなく、わかりやすそうな短編小説から読みはじめるのがおすすめです。
村上春樹作品の漫画版『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』について
村上春樹の9つの短篇小説をフランス人アーティストのJcドゥヴニとPMGLが漫画化したもの、それが『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』です。
「漫画」と聞くと、よくあるコミックタイプの本を想像するかもしれません。
しかし、この漫画は絵本スタイルの大判の本です。
フランスの漫画は「バンドデシネ」と呼ばれています。
今回の『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』は日本の漫画ではあまり見ない独特なタッチで描かれているのが特徴です。
なお、どの漫画の絵もフランス風ですが、文章自体はちゃんと日本語で書かれています。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』の9作品をそれぞれ紹介
第1巻『パン屋再襲撃』
夜中2時前に突然生じた竜巻のような圧倒的な空腹感は、僕にパン屋襲撃のことを思い出させた。その話を妻に聞かせたことが正しい選択だったのか、僕にはいまもって確信がもてない。そして夫婦はパン屋を再び襲撃するため、真夜中の街へと繰り出す——。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
村上春樹作品のなかでも人気の短編小説に位置するのがこの『パン屋再襲撃』です。
パン屋を襲撃するだけでも珍しいのに、なんと、「再襲撃」。
タイトルのインパクトがすごいです。
1986年頃に発表された作品でいまもなお、人気の作品です。
第2巻『かえるくん、東京を救う』
“目に見えるものだけが本当のものとは限らない”
平凡な中年サラリーマンの「片桐」の元に突如現れた「かえるくん」。なんの取り柄もない片桐に、かえるくんは自分とともに東京を救ってくれと頼みます。戦う相手は東京の地下に眠る「みみずくん」。眼前に迫る未曾有の危機に、片桐とかえるくんはどう立ち向かうのか――。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
1999年頃に発表されたのが『かえるくん、東京を救う』。
この『かえるくん、東京を救う』は1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災に影響を受けて村上さんが書いた作品です。
かえるくんと主人公の会話がいちいちおもしろくて、読みやすい短編作品です。
第3巻『シェエラザード』
週に二度「ハウス」の中で時間を共有する羽原(はばら)と彼女。前世の話、少女時代の秘密……。一度性交するたびに彼女はひとつ不思議な話を聞かせてくれる。まるで『千夜一夜物語』の王妃シェエラザードのように。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
2014年頃に発表されたのが『シェエラザード』。
この『シェエラザード』はちょっと難解かもしれません。
オチもあやふやで、アクションが多めのハラハラした作品でもないので、中級者・上級者向けかもしれません。
第4巻『バースデイ・ガール』
20歳の誕生日にレストランでアルバイトをする主人公は思いがけずオーナーと不思議な時間を過ごすことに。プレゼントとしてたった一つだけ“願い”を叶えてくれるというオーナーの提案に彼女は何を望むのか。一度しかない人生の中で無数に訪れる選択と後悔。誰もがふとした時に振り返る自分の人生と幸福の味わい深さが胸に残る。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
『バースデイ・ガール』は2002年頃に発表されました。
この『バースデイ・ガール』はかえるもみみずも出てこず、ひたすらリアルでふつうの日常のお話です。
20歳あたりの若者が抱える切ない雰囲気を感じられて、読みやすさという点ではおすすめの短編作品です。
第5巻『恋するザムザ』
主人公は「目を覚ましたとき、自分がベッドの上でグレゴール・ザムザに変身していること」を発見する。ここがどこなのか見当もつかない中、家を訪ねてきた鍵修理屋のせむしの娘と出会い、彼女に本能的な好感を抱き、「また会いたい」と心から願うように……。無垢な主人公が、世界と出会い、人と出会い、恋に落ちる。ちょっと奇妙で、でも美しい。珠玉のラブ・ストーリー!
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
『恋するザムザ』は2013年頃に書き下ろし作品として発表されました。
村上さんが敬愛するフランツ・カフカの名著『変身』へのオマージュとして書かれました。
『変身』の後日談的なストーリーで、不思議な雰囲気が漂う作品です。
第6巻『どこであれそれが見つかりそうな場所で』
“夫はそこで消えてしまったのです。煙のように——”
自宅マンションで忽然と姿を消してしまった失踪人の妻からの依頼を受け、主人公の“私”は調査をはじめた。彼はどこへ消えてしまったのか、なぜいなくなってしまったのか。マンションの階段で出会う奇妙な住人たちとの何気ない会話から事件に迫る。失踪人を捜すという行為をとおして、“私”が本当に捜しているものとは。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
『どこであれそれが見つかりそうな場所で』は2005年に発表されました。
『東京奇譚集』という短編小説におさめられています。
この短編小説はちょっと謎です。
失踪した人間がなぜ失踪したかの理由も明かされず、深いテーマの短編です。
ただこの短編では、ところどころクスっとしてしまう箇所が多いです。
たとえば、登場人物の女の子がミスドの好きなドーナツを答えるシーン。
『ほかほかフルムーン』、『うさぎホイップ』と出てきたりします(ミスドで販売されているとされる、架空のドーナツ)。
最初に読む村上春樹作品の漫画としては、難解なのであまりおすすめはできません。
第7巻『七番目の男』
「その波が私を捉えようとしたのは、私が10歳の年の、9月の午後のことでした」。
男が語り始めたのは、少年時代に体験した海辺の小さな町を襲った台風の日の出来事。大波によって目の前で親友のKを失った彼は、長い間トラウマに苛まれ続ける。40年以上を経たある日、彼は親友の描いた一束の絵と再会することに――。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
1996年頃に発表され、短編集『レキシントンの幽霊』に収録されているのがこの『七番目の男』。
高校の国語教材にも採用されたことのある短篇です。
台風の日の不穏な雰囲気と、大波の恐怖が淡々と語られていきます。
けっして明るいお話ではないので、読むタイミングに注意です。
第8巻『眠り』
信頼のおける夫と息子とともに、幸せな、しかし変化のない繰り返しの日々を過ごすひとりの主婦が、ある晩を境に眠ることができなくなる。昼夜覚醒し続け、読書に耽り物語の世界に没入する彼女の変化に、周囲の誰ひとりとして気がつくことはない。そして眠れなくなって17日めの夜——。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
1989年頃に発表され、短編集『TVピープル』に収録されている短編小説が『眠り』です。
この『眠り』は女性目線で書かれた作品でアメリカで発表された頃、読者から「よく書いてくれた」とファンレターが何通も来たそうです。
ちなみに、この『眠り』はほかの漫画よりもちょっと長いです。
第9巻『タイランド』
人生の息抜きとして、さつきはタイで休暇を取ることに。滞在の最終日、ドライバーのニミットに導かれ出会った老女から、さつきの身体の中には長い間抱え込んできた“石”があると告げられる。過去に向き合うこと、そして生きることの意味を問う珠玉の一篇。
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』公式サイトより
『タイランド』は1999年頃に発表され、短編集『神の子どもたちはみな踊る』に収録されています。
この『タイランド』は『かえるくん、東京を救う』と同じく神戸の地震をモチーフにして書かれた作品です。
女性が主人公として登場する数少ない作品のひとつです。
村上春樹作品が苦手・嫌いな人におすすめの漫画(バンドデシネ)3作品
『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』の(バンドデシネ)9冊すべてを読んでみておすすめを考えてみました。
村上春樹作品を10年以上読んでいる者としておすすめできる作品は下記の3つです。
この3作品の共通点はストーリーがシンプルで読みやすいこと。
完璧なオチはなくても、なぜそのような事態になったかについての説明は不足していても、良い読後感を得られます。
この3つの漫画から読めはじめたら、村上春樹作品嫌い・村上春樹作品が苦手……を克服できるかもしれません。
漫画以外でおすすめの村上春樹作品
漫画以外でおすすめの村上春樹作品は、『村上さんのところ』です。
『村上さんのところ』は、読者からの質問に村上春樹さんがひとつひとつ回答した本です。
期間中に、3万7465通が集まり、村上春樹さんは3716通に返事をされたそうです。
現在、『村上さんのところ』は紙の本と電子書籍版が出ています。
紙の本は厳選された473個のやりとりが掲載されています。
電子書籍版は3716個のやりとりがすべて掲載されています。
電子書籍版のほうは3716個のやりとりが入って(紙の本にすると電話帳数冊分とかなんとか)1,000円以下ですから、かなり安いです。
通学・通勤中の時間に読むのがおすすめ。
『村上さんのところ』におさめられている村上春樹さんは、普通のおもしろいおじさんです。
小説的な文章はまったくないので肩の力を抜いて、気楽に読めるはずです。
活字を読むのが苦手ならば、村上春樹作品をオーディブルで聞くのもあり
現在、Amazonオーディブルで村上春樹の過去の作品の一部が登場しています(2022年8月下旬時点)。たとえば下記です。
・ねじまき鳥クロニクル(1,2,3部)
・東京奇譚集
・螢・納屋を焼く・その他の短編
・神の子どもたちはみな踊る
・職業としての小説家
村上さんは何度も”書き直し”をすることで有名です。
あと書き直しの際に、”耳”を使って音の響きを確認しながら、書き直ししているみたいです。
だから、村上春樹作品を気軽に楽しめるいちばんの方法は、もしかしたらこのオーディオブック版なのかもしれません。
ちなみにこの漫画記事で紹介した、『かえるくん、東京を救う』『タイランド』は『神の子どもたちはみな踊る』の中に入っているので、オーディブルで聞けます。
あと『どこであれそれが見つかりそうな場所で』は『東京奇譚集』の中に入っていますので、同様に聞けます。
漫画本を買う前に、Amazonオーディブルで村上春樹作品を耳で楽しむのも良いですよ。 >Amazonオーディブル30日間無料体験を試す(期間内に解約すれば料金は0円)まとめ
村上春樹作品が苦手・嫌いな人は原作小説を読みはじめるのではなく、まずはこの漫画(バンドデシネ)シリーズがおすすめです。
これまで嫌いで敬遠していた人も漫画版で読むと違った感想を持つかもしれませんよ。
紹介した作品はどれも短編小説を漫画化したものなので、30分もあれば1冊分を読めます。
フランス人アーティストが手掛けた独特なタッチの絵により、村上春樹作品の世界観・雰囲気をなんとなくでも知ることができます。
興味がある人はぜひ読んでみてください。
第1巻「パン屋再襲撃」
第2巻「かえるくん、東京を救う」
第4巻「バースデイ・ガール」