冬の寒さがやわらぎ、気分も前向きになれそうな春らしい天気の日が続いていますね。
春はあたたかくて花粉が飛んでなければいい季節です。
あたたかい日差しの下で、ひさびさに読書でもしませんか?
今回は村上春樹作品ファン歴15年の僕が村上春樹の短編小説のなかから、「春」という出会い・別れの季節にぴったりの作品を4つ紹介します。
もくじ(各リンクから移動できます)
【春に読みたい・村上春樹】おすすめ短編小説4つ
村上春樹さんの短編集は8冊くらいあります。
そのなかから、4作品をピックアップしております。
4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて
四月のある晴れた朝、原宿の裏通りで僕は 100パーセントの女の子とすれ違う。
『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』は1981年頃に書かれた作品です。
これぞ、まさしく春にぴったりの作品。
タイトルの『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』というタイトルが素敵すぎます。
100点の女の子、ではなく、100パーセントの女の子、という表現も村上春樹さんのやさしさを感じます。
ストーリーはシンプルで、主人公の「僕」がある女の子とすれ違う。
ただそれだけ。
短いお話にもかかわらず、せつなさが胸にたくさん広がります。
『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』は原稿用紙10枚ほどの短い作品なので、5分ほどで読めます。
村上春樹作品のファンの間で、根強い人気がある作品です。
こちらは『カンガルー日和』という短編集のなかにあります。
この『カンガルー日和』には、2021年2月におこなわれた村上JAMにて朗読された『1963/1982年のイパネマ娘』も収録されています。
めくらやなぎと眠る女
「めくらやなぎっていったいなんだよ」と友だちが訊ねた。「そういう種類の柳があるのよ」と彼女は言った。
「聞いたことないね」と友だちが言った。「私が作ったのよ」と彼女が言った。「めくらやなぎの花粉をつけた小さな蠅が耳からもぐりこんで女を眠らせるの」
『めくらやなぎと眠る女』は1983年頃に書かれた短編小説です。
ストーリーは主人公の「僕」がいとこの耳の治療の付き添いで、バスに乗って病院へ行きます。そこで、友達のガールフレンドが入院していたときに見舞いに行ったことを思い返す
……という内容です。
『めくらやなぎと眠る女』は神戸を舞台にして書かれており、神戸でおこなわれたチャリティ朗読会でも朗読されています。
神戸出身の村上春樹さんにとっては特別な作品と言えそうです。
『めくらやなぎと眠る女』の主人公の「僕」は春に仕事をやめて実家にもどり、のんびり過ごしています。
乗っているバスのなかで風を感じるシーン、病院の窓から芝生を眺めるシーンなど、作品全体に少し春っぽい雰囲気があります。
この『めくらやなぎと眠る女』は短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』に収録されています。
この短編集には世界的な名作・『ノルウェイの森』の原型となった『螢』も入っています。
ちなみに『めくらやなぎと眠る女』はのちに村上春樹さんが作品を短くしており、作品を区別するために、『めくらやなぎと、眠る女』というふうにタイトルが若干変わっています(書き直されたほうには「、」が入っている)。
短くなった『めくらやなぎと、眠る女』は短編集『レキシントンの幽霊』に収録されていますので、気になる方はぜひ読んでみてくださいね。
ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles
一人の女の子のことを──かつて少女であった一人の女性のことを──今でもよく覚えている。
『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』は 最新(2021年3月現在)の短編集『一人称単数』に収録された短編小説です。
ストーリーはこんな感じです。
主人公の「僕」は1964年頃「ウィズ・ザ・ビートルズ」というレコードを胸に抱えた美しい女の子を学校の廊下で見かけます。ある日、「僕」は付き合っていた「彼女」の家に行くが、なぜか彼女のお兄さんしかおらず、芥川龍之介の『歯車』を朗読する羽目になる……。
『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』には出会い・別れのせつなさの要素が盛り込まれています。
主人公の「僕」が最初に見かけた、レコードを胸に抱えた美しい女の子については名前すらわかりません。
主人公の「僕」が当時付き合っていた彼女とは最後に悲しい別れをします。
『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』は出会い・別れが多い春にふさわしい短編小説です。
もう戻ることのないあのとき……について考えさせてくれます。
短編集『一人称単数』は、村上春樹さんがひさしぶりに一人称(僕・私)をメインとして扱った作品だけがおさめられています。
蜂蜜パイ
人生という長丁場を通じて誰かひとりを愛し続けることは、良い友だちをみつけるのとはまた別の話なのだ。
『蜂蜜パイ』は1999年頃に書かれた短編小説です。
1995年の阪神淡路大震災の要素を盛り込んだ短編集『神の子どもたちはみな踊る』に収録されています。
ストーリーはざっくりとこんな感じです。
主人公の淳平は小説家で、彼には大学時代からの友人・高槻がいます。その妻・小夜子、彼らの子の沙羅と動物園に行ったりして、仲良く過ごしています。そこで淳平は沙羅のために、蜂蜜取り名人の『とんきち』のお話をしてあげます……。
この短編は、淳平・高槻・小夜子の3人の関係が描かれています。
淳平は小夜子が好きだったにもかかわらず、高槻と小夜子が結婚してしまい、淳平の想いは宙ぶらりん状態になったまま月日が過ぎてしまいます。
ただ、物語の最後。
主人公の「たいせつなものを守りたい」という気持ちがにじみ出ていて、結末があやふやな作品が多い村上春樹作品のなかでは、わりとわかりやすい短編小説です。
『蜂蜜パイ』は読後感がいいのです。
まとめ
今回は村上春樹の短編小説のなかから、「春」という出会い・別れの季節にぴったりの作品を4つ紹介しました。
何か興味のある作品はありましたか?
春らしい天気のなか、公園のカフェなどで、のんびりと村上春樹作品を読んでみてくださいね。